無 彩 色  




 暑かった。
五代は心臓が鼓動しているのを、はっきりと体感した。
首が重かった。

 もう一度眼をさますと、ペットをぬけだした。
自分の左腕をめくり、皮膚を露出させると、ゴシゴシとこすりはじめた。
肌が赤くなり熱くなり、そして、痛くなった。そのうち紫になり、白くなった。
白さのなかに、ふたたび嬌声をきいた。

 五代は少しすつ自分の感覚をとり戻していた。
ねっとりとした重い湿気を感じて、いる。
ほの暗いなかに、自分の影がうすいと意識のすみで自覚した。
たちこめた霧のなかで自分がとけていく。
力なく立ちあがり、水辺へ近ずいていった。

 「ねえ、どこへ行くのよ」
 後から女が追いかけてくる。
赤いスカートをはいた弘美である。
スカートのフレーヤーが、ドライアイスのような霧を、あおぐように拡販している。
弘美の身体が軽く見えたが、同時に大きくも見えた。
弘美の身体が河原の砂に点々と足跡を残した。

 「ねえ、どこへ行くのよ」
 弘美はゆっくりと空中を飛ぶように、軽々と追ってきた。
霧のなかで、弘美の言葉は何度も響いた。

 「ねえ、どこへ行くのよ」
 ついさっき、五代は弘美と砂のうえで、性交したばかりだった。
射精してしまうと、判らなくなっていた。

 「ねえ、どこへ行くのよ」

 ・・・・・・違う。違うはずだ・・・・・・
 弘美が高くかかげた両足を、五代の尻にからげてきた。
弘美は折りまげた両足を、五代の尻の後で組み合せた。
弘美は宙ずりになるほどに、五代の身体に自分の局部を抑しつけてきた。
女の首は直角にまがり、脳天が砂に押しつけられた。
白い霧のなかで、白い女の白い尻の肉が白くさえた。
五代はしほんでいく肉片の感覚がなくなった。
五代は悲しかった。

 力をこめる女の両足は、しっかり五代をつかんでいる。
肉がふるえる。
そのたびに、女の白い尻についた銀の砂が落ちた。

 霧が風にまうと、五代は歩きはじめた。
女の肉体がそれを追った。
・・・・・・違う。違うはずだ・・・・・・

 そう思いながら、五代は判らなかった。
頭の心が冷えた。
空洞と化した。
そこへ白色の霧が流れこんできた。
冷めたい白色の気体がかきまわされると、鈍い痛みに襲われた。
前に弘美が立っいた。五代は腕をあげ、指に力をこめた。
若紫色の霊気が、弘美の肉体からぬけた。

 遠くで電車が、カラカラと三角形の鉄橋をわたっていった。

               <了>


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