このホテルに予約を入れたときには、朝食抜きのはずだった。
しかし、着いてみると、朝食付きだという。
それじゃあということで、最初の朝だけホテルで朝食をとることになった。
バイキング・スタイルで食べ放題。
トーストからお粥まで、おなじみの食べ物が並んでいる。
ふつうの味だが、はや、朝のコーヒーが懐かしい。
今日は鹿港(ルーガン)という街に行く。
ここだけが観光の予定に入っていたのだ。
鹿港まではバスで1時間くらい離れている。
フロントでバス乗り場を聞くと、ホテルの前を右に歩いて2〜3分のところだという。
地図をくれといっても、そんなものは必要ないくらいに近いという。
そうかと、半信半疑で歩き出す。
バスの発着所は確かに近かった。
鹿港行きのバスも直ぐきた。
呼び込みのオジサンが、切符は中で買えという。
大型バスは我々5人で貸し切り状態。
こんなに空いていて採算が合うのだろうかと、余計な心配をするうちにバスは発車した。
バスが発車するとすぐ左に建国市場が見えた。
是非この市場に行きたいと、仲間の1人が言う。
全員文句なしに賛成である。
台中駅前を通過。
台中駅とホテルは極めて近いと、はじめて判った。
我々の乗ったのは路線バスらしく、街の中を走っては停まる。
町中を一巡すると、やがて新幹線の台中駅が見えてきた。
台中駅を出ても、街道筋のバス停に停まりながら、お客を乗せたり下ろしたりして、ゆっくりと鹿港に向かって進んでいった。
台中を出発してから、すでに1時間半かかっている。
やっと鹿港らしき街に入った。
おそらくバスの終点は、街の中心にあるバスターミナルだろう。
だから終点まで乗っていれば良い、と考えていた。
しかし、バスは繁華街を出て、また郊外に向かっている。
困ったなーと思っていると、バス・ターミナルらしき場所に停まって、終点だという。
降りたところはただの広場で、バスが何台か止まっていた。
運転手をつかまえて、地図をだして、ここに行きたいのだという。
すると、市内循環バスが運行されているので、それに乗れという。
そう言いながら、市内地図と<鹿港小鎮>という観光パンフレットを手渡してくれ、近くに停まっているマイクロ・バスを指さす。
バスの料金を聞くと、無料だという。
何という街だ! たまげてしまった。
もちろん頭をペコペコと下げたことは言うまでもない。
ついでにトイレを借りたら、日本の工事現場にあるプレハブ・トイレだった。
でもこれは女性用で、男性用は暖簾の向こうに、朝顔が壁に張りついていた。
市内循環のマイクロ・バスは、1時間に1本の間隔で運転されているらしい。
我々は最初に2番の停留所で降りた。
バス停の脇には、産直のような八百屋が店開きしている。
市内に向かう道の両側に、物売りの屋台が並んでいる。
こちらにおいでおいでと迎えているようだ。
屋台のあいだを、ずるずると市内に向かう。
鹿港は古くからの港町だから、海産物が美味しいと日本のテレビで聞いてきた。
牡蛎が有名で、カラスミも安いらしい。
期待が高まる。
目的の寺院につくと、門前に揚げた小エビを売る屋台が並んでいる。
ちょっと試食をと手を伸ばす。
試食禁止らしく、窘められてしまったけど、もう口に入れてしまった。
同行の仲間は、早くも買い食いをしている。
ボクもご相伴になる。
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本殿の右脇室 |
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天后宮というお寺で、1600年代の創建だという。
今日は物日なのだろうか。
大勢の人が集まってくる。
とりあえず山門をくぐる。
小さな浅草といった感じ。
浅草寺をぎゅっと凝縮した中庭には、中央に線香炉がしつらえてあり、ゆっくりと煙が立ち上っている。
こちらの線香は長い。
日本の線香の3倍くらいある。
線香を頭に押しあてて願いごとをし、善男善女が何度も頭を下げる。
どこでもおなじみの風景である。
中庭の奥には、本堂らしき建物がある。
このお寺は、日の字のような平面になっている。
山門を入って、中庭で拝んだあと中門を潜り、一段高くなった本堂への階段を上るようになっている。
本堂の前にも小さな中庭があり、池が造られて亀がいた。
もちろん池には小銭を投げ入れた。
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ナスを二つに割ったような道具を床に投げる |
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我々は右側の階段を上った。
小振りな本堂だが、内部は細かい細工でぎっちりと埋め尽くされている。
線香の煙でいぶされて、天井廻りは真っ黒。
信者たちの長年の信仰を感じる。
中央の祭壇には仏様が安置されている。
その前で高校生くらいの女の子が、何度も何度も運勢を試している。
ちょうどナスを二つに割ったような道具を床に投げるのだ。
カランと音がして床にころがる。
床上の形で運勢を占うらしい。
彼女は何度も繰りかえして、必死に祈っていた。
この道具は中庭においてあり、だれでも自由に使えるらしい。
ボクもやってみたかったが、形の読み方が判らない。
そこで彼女の写真を撮ることに専念した。
右側には位牌堂のような造りの部屋があり、内部には仏様が隙間なく安置されている。
壁から天井と赤や黄色の極彩色で、なかなか良い雰囲気なのだ。
しばらく見とれてしまう。
我が国の寺院の装飾はあっさりしているが、こちらでは実に手が込んでいる。
細かい細工が至るところに施され、先人たちの天上への熱意が横溢している。
本尊の左側には寺院ショップがあり、土産物を売っている。
その前には階段があって、本堂の前のベランダと中庭をぐるぐる回れるようになっている。
狛犬などの石彫も素晴らしく、小さなお寺だが充実した内部空間で、参詣者が絶えないのも納得である。
しばらくするとトランペットや太鼓の音楽隊が動き始めた。
足元で爆竹がなる。
山門の下にいた赤鬼と青鬼が動き始めた。
人の背丈の倍くらいはあろうという鬼たちで、中に人が入って動かすのだ。
左右の手をブラブラさせて身体を捻り、山門の前でデモンストレーションのあと、街へとくりだしていった。
その間に何度も爆竹がなり、にぎやかな雰囲気である。
今度は別の隊列が寺院に入ってくる。
音楽隊をひきつれた赤鬼・青鬼が、手を揺すりながら行進してくる。
おそらく街には何組かの鬼たちがいるのだろう。
相当に重いらしく、途中で中の人が交代した。
しばらく見とれていたが、爆竹に追い立てられるように、寺院を後にした。
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