ジャンピー     原作・脚本  匠 雅音
01 02 03 04 05 06 07 08 09
10 11 12 13 14 15 16 17




S:49 会社からの帰宅途中、喫茶店に移って、大野陽子と林 哲也・石川直樹。
大野陽子  実は、車で人をひっかけっちゃったのよ。
でも、何でもなかったからそのまま、分かれたら、翌日死んでいたのよ。
林 哲也  何で、警察に届けなかったんです。
大野陽子  だから言ったでしょ、相手の男は何でもなかったって。
元気に歩いてい っちゃったのよ。そしたら、それを見ていた男から電話があって…。
石川直樹  黙っていてやるから、金をだせって。
大野陽子  違うのよ。
林 哲也  (おどけて)お金なら、たくさんあるでしょう。出せばいいのに。
大野陽子  (むっとして)違うって、言っているでしょ。
林 哲也  それで相手は、なんて言っているんです?
大野陽子  何も言わずに、電話を切ったわ。また電話をするって。そのうち、また なんか言ってくると思うと、恐くて。
石山直樹  警察に行ったら。
大野陽子  なんでもなかったのよ。だって、元気だったのよ。
林 哲也  でも変だな、元気だった人が簡単に死ぬかな。その人が、本当に死んだ の? 別人じゃないの?
大野陽子  新聞にも出ていたわ。
大野陽子、新聞を出す。林 哲也・石山直樹は新聞を読む。
林 哲也  この記事に間違いない? ここを通った?
大野陽子  エアロビの帰りに、たしかにそこを通ったわ。昨日も警察が、私を見張っているのよ。職場にもきたわ。
林 哲也  ほんと、いつ?
大野陽子  ほら今も、あそこに。
大野陽子、顔を向ける。しかし、それはガードマン。

石山直樹  あれはガードマンだよ。
林 哲也  でも変だな、判っているなら、なぜ警察は逮捕しないのだろう。
大野陽子  証拠がないからよ。
石山直樹  警察が来た?
大野陽子  いえ、まだ、直接は来てないわ。
林 哲也  ひき逃げなら、警察は直接、事情聴取に来るんじゃない。
大野陽子  轢き逃げだなんて、大きな声で言わないでよ。でも、いまさら警察には、行けないわ。轢き逃げは、殺人よね。あたし は殺人犯だわ。
林 哲也  おかしいな、会社で刑事なんて見たか。
石山直樹  いや、気がつかなかったけど。
大野陽子、おびえ始める。
石山直樹   大丈夫、帰れる?
林 哲也  僕が送って行きますよ。石山さん。
S:50 雨の中、大野陽子の自宅への道すがら、 
林 哲也  大野さんが、お金を貸していることと関係あるのかな。
大野陽子  私はね、かわいそうだと思って貸すのよ。
返せないほど、たくさんは貸さないもの、恨まれる筋合いはないわ。
林 哲也  昔、お金を貸した人とか? 心当たりはない?
大野陽子  人助けで貸しているのに、恨まれるなんて、困るわ。
洗濯屋の前を通るが、すでにしまっている。
大野陽子  ここまで来れば大丈夫だわ。今夜、考えてみる。ありがとう。
林 哲也  でも家まで行くよ。
大野陽子  だいじょうぶ。ありがとう。もう、あそこだから。
大野陽子は、自分のアパートを指さす。立ち話。
林 哲也  あまり心配しないで。たぶん、大野さんが轢き殺したんじゃあないよ。 時間が違いすぎるよ。
大野陽子  私も、そう思うの。ありがとう。ここでいいわ。
林 哲也  じゃ、ここで。
S:51 大野陽子のマンションの共用階段。暗い。階段の電気をつける。
大野陽子  誰が消したのかしら。
共用通路の向こうで、男の影(森光太郎)が動く。大野陽子は躊躇するが、隣人がきたので、一緒に階段を上る。大野陽子、部屋にはいる。
S:52  暗い室内。アクアリウムに男の顔らしきものが映る。しばしの沈黙。
スタンドの電灯がつく。
アクアリウムの魚が、すべて浮いて死んでいる。
大野陽子  どうしたのかしら…。嫌だわ、こんなことなかったのに。
S:53  森光太郎が去る。雷鳴と稲妻、雨。

次へ