S:10 |
豪華な部屋に、小松原章と神田啓介が対面している。神田啓介は、読んでいた新聞を放り出す。 |
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神田啓介 |
なんでも、コンピューターの世の中か。つまらんな、ドスもハジキもいらん世の中! |
小松原章 |
株の売買も、ドルの売買も、コンピューターだからな。 |
神田啓介 |
新聞は、コンピューター一色だな。市場のコンピューターに入り込めば、値段が自由に操作できるんじゃないか? しんどいしのぎをしなくても、稼げるだろう。 |
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小松原章は、コーヒーをのみながら、 |
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小松原章 |
問題は現金化だ。数字を動かしても、ゲンナマにはならんからな。 |
神田啓介 |
それじゃ、銀行のコンピューターにもぐりこんで、外国へ送金させるの はどうだ。香港あたりへ送金させれば、現金にするにもアシはつかんだ ろう。 |
小松原章 |
今それを、うちの奴らにやらせているところだ。組の奴が香港にも、バ ンコックにもいるからな。奴らに現金化させたんだ。 |
神田啓介 |
日本の銀行が気がつく前に、現金化してしまえばいいわけだからな! |
小松原章 |
銀行へコンピューターで入る分には、何時でもいいからな。国内に証拠はのこらん。実は先週、ちょいと小金を動かしてみたんだ。 |
神田啓介 |
それで? |
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当然と言ったふうに |
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小松原章 |
うまくいったさ。1億ばかり、○○銀行の事務センターからいただいて、香港へ送ったよ。あれはもう、バンコックで現物になって、取引は終わった。 |
神田啓介 |
銀行は感ずいているのか? |
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小松原章 |
わかっているだろう。
しかし、日本の銀行は、内部の不祥事は表にださんのさ。システムが破られたとあっては、銀行の信用にかかわるからな。
今ごろ、奴らは躍起になって調べているさ。 |
神田啓介 |
コンピューターというのは、賢いものだな。しかし、同じ手口は何度もつかえんだろう? |
小松原章 |
ああ次は、海外の銀行をねらっている。海外の銀行同士での送金だ。日本の銀行じゃなくてな。金は、世界中にあるんだから。
しばらく海外旅行をして、ほとぼりがさめた頃、日本の銀行にまた舞い戻るさ。 |
神田啓介 |
それで? |
小松原章 |
今うちの奴らに、そのシステムをつくらせているんだが、 |
神田啓介 |
いつごろ完成するんだ? |
小松原章 |
もう少しで、できるはずだ。潤一郎が、完成間近だと言っているか ら。 |
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S:11 |
国内の金融機関が、コンピューターで決済されている状況。 |
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S:12 |
松井潤一郎の職場。コンピューターと格闘する松井潤一郎。にやっと笑う。コンピューターから、CDを抜き出して、ケースに入れる。それをもって、なに喰わぬ顔で、退社しようとする。 |
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小松原章 |
今日は早いな。 |
松井潤一郎 |
(不明瞭に)ええ、ちょっと、用があるので。 |
小松原章 |
早く仕上げてくれよ、まってんだから。 |
松井潤一郎 |
ええ、もうすこしです。今日は、失礼します。 |
小松原章 |
ああ。ごくろう。 |
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S:13 |
雨のなかを、松井潤一郎は退社する。 |
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S:14 |
松井潤一郎の退社途中、横断報道が赤信号で立ち止まる。
その背後に柔道場が見える。森光太郎が乱取りの稽古中。背負い投げが崩れ、そのまま 寝技から、締め技へとはいる。
締め技が決まり、相手は畳を叩いてギブアップを示すが、森光太郎は無視して落とす。 相手は失禁する。 |
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森光太郎 |
ふん、だらしない奴。 |
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森光太郎は、嘲笑の笑みを浮かべて、道場から消える。隣で乱取り中の2人が、あわてて介護する。 |
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道場の男1 |
だいじょうぶか? |
〃 2 |
おい |
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奥から、道場主が現れて、気合いもろとも背中を押す。 |
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道場主 |
どうした、落とされたのか。どいてみろ、えい。 |
道場の男1 |
やり過ぎだよな、あいつ。まいったと言ってるじゃないか。 |
〃 2 |
弱いものをいじめて、楽しんでいるだ、あいつは。 |
道場主 |
また、あいつか。 |
道場の男2 |
人が苦しむのを見て、喜んでいるんだぜ。あいつのは稽古じゃない。 |
〃 1 |
俺はあいつの相手はしないからな。あいつの眼を見たか、すごい眼をするときがあるぜ。気味が悪いよ。 |
道場主 |
あまり、激しくやるのもな…。事故はおこさんでくれよ。 |
道場の男2 |
事故が起きなければいいが…。 |
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落とされた男が息を吹き返す。 |
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道場の男3 |
うーん…。ひどい奴だな。まいったっていっているのに…。 |
〃 1 |
いまに絞め殺すんじゃないか、あいつ。 |
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道場の男3は、失禁したことに、いたたまれない様子。 |