20年ぶりのアメリカ
2011.10.5−記
第1日目 アメリカ再訪
第2日目 バーリントン、バーモント
第3日目 バーリントンの風景
第4日目 モントリオール
第5日目 モントリオールからボストンへ
第6日目 ボストンの安宿
第7日目 ワンダーランド
第8日目 セイラムの魔女
第9日目 ボストン市内
第10〜11日目 旅行も終わり
雨中居のトップに戻る


第8日目   セイラムの魔女  

第8日目(9月15日:木)
 いつものようにワンダーランド駅へタクシーで行こうとすると、緊急の人がいるので相乗りさせて欲しいという。
気安く良いよと言ったら、黒人の女性とそのお母さんが乗り込んできた。
2歳の娘が火傷をして入院中で、娘の見舞いのために病院へ行くのだそうだ。

 タクシーの車内で、運転手がボストンのどこへ行くかと聞くので、セイラムだというと、北駅から乗るのかという。
そうだと答えると、なんとタクシーは北駅まで行ってしまった。
料金はしっかり16ドル取られたが、朝のハイウェイを走ったのは、新しい体験だった。

 Red Roof Inn からローガン飛行場までは24ドル、ボストンまでは48ドルと提携してるから、ロイヤル・タクシーを使ってくれ、とカードに書いてくれた。
ケイタイをもっていないので、タクシーは呼べないよと言うと、公衆電話を使ってくれ。
クオーターを上げようかという。
公衆電話は壊れていないかというと、ワンダーランド駅の海側なら大丈夫だという。

 彼は狭い地域にタクシー会社が4社もあるので、競争が大変だと言っていた。
ロイヤル・タクシーは小さなタクシー会社なので、全員で営業をしているのだろう。
じつに気の良いヤツだった。

コミューター・レールを引っ張るディーゼル機関車

 北駅からセイラムへは、コミューター・レールという通勤列車が走っている。
アムトラックから線路を借りて、地下鉄会社が運営しているらしいが、別料金で7日切符では乗れない。
通勤時間帯こそ、1時間に2〜3本あるが、なにせ単線だから限界がある。
しかも、この列車はディーゼル機関車に曳かれた時代物である。

 全部で6〜8両くらい連結しているが、2両に1人くらいの割合で車掌さんが乗っている。
駅員のいない駅から乗ってくると、車掌さんが車内で切符を売る。
しかも、昔我が国でもみたような、パチンパチンとハサミを入れる式の長い切符なのだ。
我が国なら省力化で、とっくに車掌さんなどいなくなってしまうだろうに。

 アメリカでは全体に人手をかけている感じがする。
コミューター・レールでは1列車に4人くらいの車掌さんが乗っているし、飛行場のレンターカー受付にもエイヴィスからバジェットまですべてに人がいる。
レストランでもウェイター・ウェイトレスは日本より多い。
省力化はアメリカの十八番と思ったが、意外に人手が配置されている。

 驚いたことに、このゴツいディーゼル機関車の運転手は、なんと女性なのだ。
大型の機関車と女性の組み合わせが面白い。コミューター・レールというおんぼろ列車は、単線をゆっくりと走っていく。
列車というハードは古いが、自転車は持ち込みができるなど、運営ソフト面での革新は進んでいる感じがする。
帰りに判ったことだが、夕方も6時頃になると、ボストンから多くのサラリーマンがセイラムなどに帰宅する。
これなら、ゆったりした人生が楽しめるだろう。

 セイラム駅は、駐車場の端にへばりついたようにホームが延びており、駅舎のようなものはない。
一歩ホームを降りると、そこはもう道路である。
駐車場とホームの間を歩き、前の広い道路へとコンクリートの階段を上がる。

 映画「クルーシブル」の舞台にもなったセイラムは魔女が有名で、ハロウィーンには全米から魔女ファンが集まるのだとか。
さすがに魔女で有名な街らしく、魔女の案内板があちこちに見えるし、タクシーにも魔女マークが印されている。
商店のウィンドウにも、魔女関連の商品がずらりと並んでいる。

魔女マーク

 街の中心にあるセイラム魔女案内所に行く。
地図をもらって、市内観光バスの乗り方を聞く。
案内所の前から30分毎に出ているとか。
切符は自販機ではなく、赤いベストを着た女性から買うのだ。
ここにも人手をかけている。
紫色が魔女の色らしく、紫の衣類などを着た女性たちが、10人くらい集団で観光に来ている。
彼女たちもバスに乗るのだろう。

 バスは小さなセイラムの街を一周する。
途中で乗り降り自由というのも、ボストンのバスと同じ。
でも、満員になるとバス停を通過してしまうので、途中下車すると再びバスに乗れなくなる恐れがある。
バスの中では、男性が街の案内をしており、どこそこのレストランが美味いとか、けっこう勝手なことを言っている。

 バスを降りると、お昼を過ぎていた。
バスの案内人の宣伝に従って、近くのレストランに入る。
宣伝の効果からか、けっこうな人がいる。
しかし、待つほどのこともなく、テーブルに案内される。
地の生ビールにラムチョップとクラムチャウダーを食べる。

 食後はバスで一周した後を、今度はめぼしいところを歩いて廻る。
ここでは展示館が劇場形式になっており、中では寸劇などを演じて魔女を売り込んでいる。
学芸会のようで、じつに長閑な観光地である。
こんな街に暮らしていたら、人間性が豊かになるだろうか。

 ピーボディ・エセックス博物館に行く。
最近増築されたらしく、建物が素晴らしい。
ノーマン・フォスターも真っ青。
ここで面白い展示を見た。
横70センチ、縦120センチくらいの液晶盤に、あたかもポートレート写真のように女性が写っている。
ちょっとみると動いてないようだが、じつは少し動いており驚く。

 ビデオアートの一種だろうが、新しい表現のように感じた。
しかも、3枚展示されているうちの1枚のモデルは、博物館の案内をしている女性だった。
彼女に新しい試みで感心した。
作者は?
と聞くと、アン・ミューラーという女性だという返事。
カメラの前に10分間ばかり立っていたのだという。
これを見ただけで満足だった。

 サラリーマンが帰宅するのと反対に、われわれはボストンへと戻る。
来るときより乗客は増えているが、それでも我が国のラッシュとはほど遠い。
進行方向に固定されたバス型の座席を、1人で占領してもまだ空席がある。
ダウンタウンのラッシュ時の地下鉄だって、混雑で人と人がふれあうと言うことはない。

 着ている物を見ると、日本人のほうがはるかに良質の物を着ている。
それは確かだ。
全体に日本のほうが小綺麗で、ピカピカしている感じがする。
しかし、生活の余裕というか、生活を楽しんでいるかは、アメリカ人に軍配が上がりそうだ。
もちろん、アメリカの貧乏は底知れぬものだろう。
貧富の格差がひどいことは承知だが、普通の市民生活の質が何か違うような感じがする。

ボストン市内の夕暮れ

 ボストンのダウンタウンへ戻ってきた。
ボストンは海産物で有名である。
今日の夕食は牡蛎にしよう。
ということで、創業1826年のユニオン・オイスター・ハウスへと向かう。
ヘイ・マーケット駅の駅員さんに聞くと、たちまち教えてくれた。
超有名なのだ。

 しかし、着いたのは夕食時。
40分待ちだという。
幸いなことに、テーブルに1人で座っていた女性が、相席を申し出てくれた。
我々がセイラムに行ってきたことを知ると、どうだったと聞く。
そこで、「There were many witches, Alived witches.」と言うと、彼女は大笑いした。

 彼女はかつてボストンに6年住んでいたが、今日はヒューストンから来ているのだとか。
ハーバードの医療機関に研修に来たのだという。
メキシコ系の2世で4児の母だという。
オイスターも良いが、musselが美味いから頼めと言う。
ムール貝のことをmusselと言うのだと知った。
片言のスペイン語をまじえて、話は多いに盛り上がった。

 1時間位しただろうか、彼女は先に失礼すると席を立った。
こちらも立って握手して別れた。
そして、ウェイトレスに追加を頼もうとしたら、会計を新たに立てるかと聞いてくる。
変だなと思っていたら、彼女が我々の分まで支払ってくれていた。
初対面の我々に、奢っても何の得にもならない。
にもかかわらず、黙って奢ってくれていたのだ。

 何というスマートなマナーなのだろう。
初対面の外国人と話が盛り上がったら、ボクにこんな粋な対応ができるだろうか。
1メートル50センチそこそこの小柄な女性だったが、世界は広いと思い知らされた。
この店の常連らしく、ウエイトレスも彼女は素敵な人だと言っていた。
脱帽である。
見習おうと思う。  
広告

次へ