朝起きて、シャワーを浴びる。
ここは室内にシャワーがあるが、水しかでない。
風邪をひいたようで、体中の関節が痛い。
夕べはずいぶんと汗をかいた。
着ていたものがびっしょりと重いが、体は楽になった。
シャワーを浴びたが、再度汗まみれの洋服を着る。
なんだか体が臭い。
荷物を背負って表にでる。
まだ薄暗く静かな住宅の間を歩く。
道路で寝ている人がいるが、僕はすでに驚かない。
暗い中で牛が動いている。
牛だけではない。
路地の奥では、すでに人も動いている。
ガヤー駅前の広場にでた。
そこは、人がせわしなく行き交っている。
その中で牛だ けは悠然と動いている。
ところがその目の前で、地面の上に何人もの人が寝ていた。
2・3人づつ一塊になって、 広場にばらまかれたように、ごろごろと転がっている。
ハウラー駅のベランダで見たように、敷物をしいて仮想室内を作り、その上で熟睡している。
まわりを人 や牛、犬などが通るが、彼等はいっこうに起きない。
僕は、感動しながら通り過ぎる。
駅舎にはいる。
何番線だ ろうか。
3本のホームのうち、人がいるのは手前のホームしかない。
僕もそこで待つことにする。
すると、列車が入ってきた。
これは行き先が違って、僕の乗る列車ではない。
しかし、5分ほど停車していたが、まだ発車時刻にならないのに発車してしまった。
遅れることはあっても、ダイヤより早く発車してしまうこと があるだろうか。
僕の乗る列車は30分遅れて到着。
バナナを1本買って食べる。
1ルピー。
こってりと甘い。
美味しいので、もう2本買って列車に持ち込む。
エヤコン付き1等寝台は、上下二段で、各ベットにはカーテンがかかり、毛布や枕もあった。
僕の前には日本人の若者が寝ており、彼は昨夜カルカッタから乗ったそうで、エヤコンが効きすぎて寒いと言っていた。
「ブレック・ファースト?」
と車掌さんが聞きに来た。
1等寝台となると違うなと感心しながら、何がでてくるか楽しみにして注文する。
しばらくして届いた朝食は、オムレツに魔法瓶入り のチャイだった。
インドではじめてカレー味ではない。
朝食代も乗車賃に含まれているのかと思っていたら、しっかりお金を取りに来た。
朝食に30ルピー!
1等寝台とは、お金のある人が乗るものである。
前に寝ていた日本人は、デリーでパック旅行を買ったのだそうで、ムガル・サライ駅のホームに降りると迎えの人が来ていた。
僕はそれを横目で見ながら、うろうろとバス停を捜す。
たちまちタクシーやオートリキシャの客引きが寄ってくる。
「あそこがバス停だが、バスはない」
と彼等は言う。
「判った。ありがとう」
と言ってバス停に座る。
客引きがさかんにバスは無いという。
確かにバス停らしきところには、バスが1台とまっているが、扉も閉まっており動く気配はなかった。
10分くらいたっただろうか、不安になりかかった頃、誰かがバナラスィー行きのバスだと怒鳴って、いまにも発車しそうなバスを指さした。
道路はしに停まったそのバスは、すでに客を乗せ、車掌がステップから身を乗り出して、何か大声で叫んでいた。
慌てて駆け出し、僕もそのバスに乗る。
木のシートだったが、幸いなことに1番前に座れた。
すぐに発車したバスは、すこし走っては次々と止まる。
そこで、新たに客が乗ってくる。
客が乗り終えると、車掌さんはバスの車体を、手のひらでバンバンとたたく。
それが発車の合図である。
いつ造られたのか想像もつかないオンボロ・バスは、大きな音を響かせて発車する。
運転席の右側の窓にはガラスがない。
窓のレールはぐにゃぐにゃに曲がっており、どう考えてもガラスは入りそうにもない。
乗り出して運転台をみると、メーター類はすべて無い。
不揃いなスイッチが2・3ヶと、色とりどりのコードが見える。
油のしみこんだ床から、地面が見えた。
すでに満員状態になり、通路には客がびっちりと立っている。
客は全員男である。
それをかき分けて、車掌は切符を売りに来る。
僕の前には、大きな荷物が置かれる。
だんだん足を置く場所が無くなってきた。
買い物袋のようなものを持った男が、僕の前に立った。
その袋の中には鶏が入っており、頭だけ出していた。
鶏と僕の目がちょうど同じ高さだった。
鶏と目があった。
でも鶏は、僕を見ているのか判らない。
1時間くらい 走ったところで、大きな橋を渡った。
橋のたもとで客がずいぶんと降りた。
隣に線路が見えてきた。
バナラスィーは近いらしい。
舗装が痛んで大きな穴が開いた道を、バスは車体をゆすってのろのろと走る。
かろうじてトラックとすれ違う。
道路に沿って100メートル近く、生ゴミが山と積まれたわきを通過。
臭いがバ スを襲う。
前にもトラックが連なっている。
バスは止まってしまった。
渋滞で動かなくなった。
すると、バスは対向車を止めてUターンを始めた。
そして車掌が、全員ここで降りろと言う。
途上国ではどこでも、運転手は威厳があって、立派な人相をしている。
バスのよう に大きな機械を動かすことが、大変な能力に見えるのだろう。
ぼろぼろのバスを操る多くの運転手は、堂々として多くは無口である。
それとは対照的に、車掌は ほとんど男だが、虎の威を借りる狐のごとく、口うるさく命令的である。
車掌の命令に従って客は黙って降りる。
陽が照って暑い。
全員がバスの進行方向に歩き出す。
トラックのわきをすり抜けながら、ぬかるみをよけて歩く。
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